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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)7193号 判決 1992年7月03日

原告

総評全国一般労働組合大阪地方連合会全自動車教習所労働組合

右代表者執行委員長

家本稜威雄

右訴訟代理人弁護士

井上二郎

上原康夫

竹下政行

被告

総評全国一般労働組合大阪地方連合会

右代表者執行委員長

福田律二

右訴訟代理人弁護士

井上英昭

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し金一四一万三一二〇円及びこれに対する平成三年三月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要(争いのない事実)

一  原告は、昭和四〇年五月一六日結成以来、被告に加盟していたが、平成二年八月三〇日・被告第四回中央委員会において権利停止処分、同年九月三〇日・第三三回定期大会において、右処分の続行処分を受け、同二年八月三〇日から同三年二月末日まで権利停止(以下、本件権利停止という)され、同年三月一日、被告規約(<証拠略>、以下、規約という)一一条により、正当な理由なく組合費を三カ月以上滞納したとして除籍された。

二  原告は被告に対し、昭和五九年一〇月二三日までに、被告「共同闘争基金運用規則」(<証拠略>、以下、規則という)に基き、共同闘争基金二〇〇万円を預託した。

三  被告は、平成三年三月一日、原告に対し、除籍に伴う右預託基金の返還に際し、本判決末尾添付の改正「共同闘争基金運用規則」(<証拠略>、同年一月二四日施行、以下、改正規則という)一四条により、預託基金二〇〇万円から原告が不払とした同二年八月分から同三年二月分までの組合費合計金一四一万三一二〇円を控除し、金五八万六八八〇円を返還した(以下、本件清算処理という)。

第三争点

本件清算処理は正当か。

(原告)

一  原告の本件権利停止期間における組合費納入義務の不存在

1 原告は、右期間中、被告構成員としての一切の権利を剥奪されていたから、組合費納入義務を負わない。

2 規約は脱退、除名の場合の組合費納入義務は定めるが(六〇条)、除籍の場合の規定はないから、規約上、除籍者は不払組合費の納入義務を免れる。

二  被告による右組合費請求の違法性

原告は、次のとおり、被告の違法・不当な攻撃、対応に抵抗するため、本件権利停止期間、組合費を納入しなかったのであり、正当事由があるから、被告が右組合費の納入を求めることは信義則に反する。

1 本件権利停止は、被告において、原告が被告の民主的運営を求めるのを嫌い、同二年七月二六日、原告から分裂した別組合の加盟を承認した(争いがない)後、原告を排除、放逐する目的でなしたもので実体的、手続的(原告の権利停止は、第三回中央委員会において一度否決されている)に違法不当である。

2 本件権利停止は、処分解除条件として、原告の受諾し得ないことが明白な自己批判等を付している(争いがない)から、実質上の除名である。

3 原告は、同年八月二〇日頃、被告に対し、会計帳簿の閲覧を請求したが、被告は応じなかった。原告の右請求が本件権利停止中であったとしても、右閲覧請求は権利停止中もなし得る。

組合財政は専ら組合員の納入する組合費に依拠しており、組合費の会計帳簿閲覧請求権は、適正且つ健全な組合財政の管理運営のため、必要不可欠であり、被告が原告の右請求に応じないのは不当である。

三  闘争基金の返還と未払組合費の清算処理の不当性

1 本判決末尾添付の規則一四条は闘争基金の返還と未払組合費の清算処理を認めず、それぞれを現実に履行すべきことと定めている。改正規則一四条は、原告の本件権利停止中(除籍の直前)、原告を除外して改正されたのであるから、原告に対し効力を有しない。したがって、被告は原告に対し、規則一四条に従い預託基金を返還すべきであり、改正規則一四条により本件清算処理をすることはできない。規則改正前に清算処理をした例があったとしても、原告の関知するところではない。

2 前記(二3)組合員の会計帳簿閲覧請求権の重要性に照らし、組合の組合費納入請求と組合員の会計帳簿閲覧請求は同時履行ないし同時履行と類似の関係にあるというべきである。したがって、被告において、原告の会計帳簿閲覧請求に応じることなく、本件清算処理により組合費徴収の実を上げることは許されない。

四  以上によると、本件清算処理は不当であり、被告は原告に対し金一四一万三一二〇円を返還すべきである。

(被告)

一1  規約上、権利停止は組合員の義務を免除せず、原告は本件権利停止期間中も組合費納入義務を負う。

2  除籍は未納組合費の納入を免除しない。

二  被告が原告に対し本件権利停止期間の組合費納入を求めることは何ら信義則に反しない。

1 被告は原告の排除、放逐を企図していない。本件権利停止は実体上も手続上も正当になされた。

2 本件権利停止は字義どおり権利停止であり、実質上も除名ではない。

3 原告が会計帳簿の閲覧請求をしたのは本件権利停止中であるから、被告に応じる義務はない。

三1  規則一四条は闘争基金の返還と未納組合費の清算処理を絶対的に禁じる趣旨ではなく、実際に清算処理の運用がなされてきた。

2  組合費徴収と会計帳簿閲覧は同時履行ないし類似の関係にはない。

四  以上によると、本件清算処理は正当である。

第四判断

一  本件権利停止期間における組合費納入義務について

1  規約は、加盟組合の権利及び義務の内容を各別に定めた(六、七条)上、加盟組合は脱退、除名、除籍により資格を失うこと(九条)、懲罰は除名、権利停止、戒告であること(五〇条)、除名については最終決定がされるまで加盟組合、組合員としての資格は保留されるが権利は停止されること(五二条)、除名により資格を喪失した場合でも機関が決定した月分までの組合費は納入しなければならないこと(六〇条)等を定めており、以上を総合すると、規約にいう権利停止は、加盟組合の権利のみを停止し、義務は免除しないものと解すべきことが明らかである。

2  脱退、除名に関する規約六〇条と対比して考察しても、除籍の場合、滞納組合費の納入が免除されるとは到底解されない。

3  したがって、原告の主張一は理由がない。

二  信義則違反について

1  本件権利停止が違法不当であり、その結果、原告の権利行使等が阻害されたとしても、被告において、不法行為責任の生じる余地があるのは格別、組合費を徴することが直ちに信義則に反すると解することはできない。

2  本件権利停止が、原告に実行不可能な処分解除条件を付しているからといって、実質上の除名であるということはできないし、規約上、除名は直ちに組合費納入義務を免らしめるものでもない(六〇条)。

3  (証拠略)によると、原告が被告に対し会計帳簿の閲覧請求をしたのは本件権利停止期間中(同二年八月三〇日)であり、規約六条、五〇条、五二条によると、権利停止処分は会計帳簿閲覧請求権も停止すると解される(適正且つ健全な組合財政の管理運営の重要性を考慮しても、右規定が違法不当とは即断できない)から、被告が原告の右閲覧請求に応じなかったことは不当とはいえない。

4  したがって、原告の主張二は失当である。

三1  清算処理禁止について

改正規則は原告に対しても適用されるべものと判断するが、仮にそうでないとしても、規則一四条は、単組の債務の返済期限を基金の返還期限の前に定め、実質的に清算処理を行うことを排斥しているとは解されず、(証拠略)によると、被告は、昭和五二年六月、除名組合に対し、本件清算処理と同様の清算処理をしており、当時、被告副委員長は原告の前執行委員長溝端隆であったことが認められ、以上を総合すると、本件清算処理が規則一四条に違反し、不当であるとはいえない。

2  会計帳簿閲覧請求権と組合費請求権の同時履行関係について

前記(二3)のとおり、被告が原告に対し会計帳簿閲覧請求をしたのは本件権利停止中であり、被告はこれに応じる義務はないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張は失当である。

3  したがって、原告の主張三も理由がない。

五  以上によると、本件清算処理は正当であるから、原告の請求は理由がない。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 黒津英明 裁判官 岩佐真寿美)

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